逸ノ城が私の想像を越えた。
眠れる獅子が目を覚ましたのか。
正直取り組みを観るまでは、逸ノ城が左上手を引き付けても勝てないと思っていた。
それは『右四つの完成度』が照ノ富士の方が圧倒的に上だからである。
照ノ富士が幕内復帰してから朝乃山と対戦していた時期、私はこれに関して何度も記載していたが、照ノ富士の右四つは単純に上手を引けば強いというだけでなく、廻しを切る技術、上手の引く位置等、同じ右四つ力士達を圧倒するものがあった。
話は逸れるが、それ以上に完成された右四つの力士が白鵬であった。
話は照ノ富士、逸ノ城に戻すが、仮に逸ノ城が上手を引いても照ノ富士に切られてしまうと思っていた。
それが蓋を開けてみれば、立ち合いすぐに逸ノ城が左前ミツを引き付け、照ノ富士の上体を浮かせてしまった。
その後照ノ富士が強烈に極めてかかるが、逸ノ城も右の差し手を深くし、珍しくもろ差しの形を作った。
照ノ富士は両上手を引き付けることも出来ず、さすがにこの形になれば逸ノ城の相撲だった。
これで序盤戦無傷の5連勝とし、さらには本日で単独首位にも立った。
優勝争いという点ではまだまだ先は長いが、誰もが期待したくなるだろう。
実力は8年前の新入幕の時から誰もが知っている。
何度も殻を破りかけたときもあったが、完全には破ることが出来なかった。
今場所もこの先どうなるかはわからないが、ここまで序盤戦5日間の逸ノ城は間違いなく『怪物逸ノ城』である。
正直本日はこの一番だけで十分なのだが、大関陣にも触れておこう。
貴景勝が連敗を免れ序盤戦白星先行とした。
好調玉鷲相手だったが、立ち合いの当たり悪くなく、相手に圧力をかけてから左突き落としで崩した。
しっかり当たれているときの左突き落としは見ていて安心感がある。
押し切ることが出来ていないという事実もあるが、まずは白星を積み重ねていくことだろう。
御嶽海はお得意様の宇良に敗れ序盤戦黒星先行。
いつもは宇良を正面に置き、圧倒することが多かったのだが、本日は宇良のペースにハマってしまった。
今場所の御嶽海は何か恐々相撲を取っているような印象を受ける。
立ち合いの当たり、圧力もないため、相手にとってはあまり脅威を感じないだろう。
御嶽海の場合、何だかんだで8勝には到達する気もするが、如何せん先場所6勝で負け越しているため何とも言い難い。
とにもかくにも白星を積み重ねていくしかないだろう。
正代は連勝ならず、3場所連続序盤戦1勝4敗。
この一番は大関初挑戦の若元春の良さが光った一番でもあった。
立ち合い踏み込み良く、左おっつけから左を差し、攻めながら右上手も引いた。
正代も左を差して十分であるため、左から掬ったが若元春は堪えて寄り切ることが出来た。
若元春の会心の相撲であることに間違いはないが、正代が得意の左を差しても白星に結び付かないというのが、ここ数場所の成績を物語っている。
中盤戦以降7勝3敗とする正代の姿は全く思い浮かばないが、本気で大関の座を守りたいならば腐らずやっていくしかない。
両関脇がともに白星。
若隆景は巧さを見せて豊昇龍に相撲を取らせなかった。
昨日も記載したが、今場所の若隆景は軽い相撲が続いていたが、本日対戦相手の豊昇龍も比較的細身であるため、うまく相撲を取ることが出来たか。
この先重量級相手に変わらず相撲を取ることが出来るかどうか。
一方豊昇龍は気掛かりな内容が続いている。
いまいち何をしたいのかもわからないし、またいつもの場所と比較すると粘りも見られないように感じる。
苦しい序盤戦となっているが、巻き返しは出来るのだろうか。
大栄翔は今場所一番の相撲で序盤戦白星先行とした。
好調阿炎相手に突っ張り合いとなったが、大栄翔の方が下から突き上げているため、阿炎に引かせる相撲を取らせた。
良い相撲で白星を先行させ、これで中盤戦以降も白星を積み重ねていけるかどうか。
照ノ富士にとっては3連敗中の相手であり、早くも正念場と言えるだろう。
立ち合いしっかり踏み込んで圧力をかけることが出来れば大丈夫だと思うが、ここ3場所はまともに当たりを受けて後退している。
立ち合い勝負になると思うがはてさて。
冒頭でも記載した通り、逸ノ城が私の想像を越えたため、優勝争いも混沌としてきた。
逸ノ城が強いといっても、さすがに15戦全勝は予想がしづらいし、だからといって役力士が全員2敗以上を喫しているため、誰が追走できるのか。
先の読めない展開だが、中盤戦以降も目が離せない。