2敗、3敗力士の3名が本割で全滅。
荒れる大阪場所は最後までわからない展開に陥った。
結果的に12勝3敗の成績で『若隆景ー高安』の優勝決定戦へ突入した。
関脇ー平幕の組み合わせは昭和47年春場所の『長谷川ー魁傑』以来50年ぶりであり、奇しくも春場所であること、そして関脇と前頭7枚目という地位は今回の組み合わせと全く同じであった。
それにしても壮絶な優勝決定戦だった。
高安は立ち合いかちあげを選択したが、若隆景はやや右に動いてかちあげの威力を半減させた。
その後高安が差そうとするが、若隆景がおっつけて密着する展開から高安が得意の左を差して下手も引いたが、若隆景がうまく回り込みながら下手を切り、離れる展開となった。
そこから珍しく若隆景が張りにいく動きも見せながら下から攻めていったが、高安もしっかり残し、そして若隆景が思わず叩いてしまった。
正面土俵まで下がり、膝も崩れそうになり、若隆景は絶体絶命、九分九厘高安の勝利が決まったと思われた。
しかし高安の左腕を手繰りつつ、最後は右で上手を引いて大逆転の上手出し投げを決めた。
今場所は最後の最後まで二転三転する予想が難しい展開であり、さらには優勝決定戦の内容に関しても最後の最後までわからない壮絶な一番だった。
私個人としてはどちらが優勝しても構わないし、極論を言えば両者が揃って勝って13勝とした上で優勝決定戦を見たいという気持ちが強かった。
しかしこの壮絶な優勝決定戦を見てそんな気持ちは消え去った。
本当に素晴らしい一番だった。
両者に拍手を送りたい。
そして若隆景おめでとう!
今場所の若隆景は本当に強くなった。
『巧い力士』から『強い力士』に変貌を遂げた場所となった。
この場所の活躍により、大関候補筆頭の存在となった。
体型などから千代の富士のような力士になることを望むファンも増えている様子である。
正直場所前は、若隆景よりも同じ新関脇である阿炎の方が期待値としては高かった。
私も場所前の展望にて、優勝争いという点においては若隆景の名前は一切挙げていなかった。
ここ数場所地力をつけているため、勝ち越しはするだろうなという程度の見方であった。
それが蓋を開けてみれば恐ろしいほどに変貌を遂げた。
元来の巧さも兼ね備えているため、この先は誰もが期待したくなる力士になっただろう。
この優勝を皮切りにさらなる活躍を期待している。
そして優勝決定戦に敗れた高安。
今場所もあと一歩というところで優勝に手が届かなかった。
今場所に限って言えば、あともう半歩と言える程まで優勝に迫っていただろう。
私は場所前の展望にて高安はダークホースだと期待していたが、期待に違わず初日から10連勝を果たした。
そして割崩しが行われての終盤戦役力士との5連戦で、まず11日目に若隆景に敗れてしまった。
11日目の『勝手に語る』の方でも記載したが、この一番に関しては若隆景の方が俄然有利だと思っていたため驚きはなかった。
問題はその後重圧に押し潰されるのではないかという心配だった。
昨年春場所はそれで自滅してしまい、最終的には誰が相手でも勝てないのではないかと思わせる程の姿だった。
しかし今場所は違った。
敗れた翌日から御嶽海、貴景勝と大関相手に連勝した。
相撲内容を見ても冷静であり、今場所の高安は重圧に潰される心配はないと思わせた。
しかしやはりともいうべきか、そうは言っても人間は中々変わるのが難しいものである。
14日目苦手正代との一番では、珍しく攻め急いで逆転のすくい投げに屈した。
いつもはむしろ攻めるのが遅いくらいの高安が攻め急ぐのだから、優勝への重圧、苦手への意識があったのだろう。
そして千秋楽本割に関しても、阿炎が良い相撲を取ったことは間違いないが、それにしても今場所の高安からは想像出来ないほどのあまりにも脆い敗れ方だった。
14日目、千秋楽本割に関しては重圧に潰されたといっても良いだろう。
正直千秋楽本割の一番に敗れた後、高安としては諦めの気持ちが生まれただろう。
しかしまさかの若隆景も本割で正代に敗れて優勝決定戦へ突入。
ここで高安は吹っ切れたと思う。
一度は諦めたが、再度チャンスが巡ってきた。
優勝決定戦の一番に関しては重圧に潰された様子は無かった。
高安の持っている力、力士生命全てを懸けて挑んだと言っても過言ではない一番だった。
本来ならば若隆景のおっつけでそのまま後退して敗れることも十分考えられた。
しかし高安はおっつけを堪え、相手の動きにも全て足を運ぶことが出来た。
しかし最後の最後で土俵の神様は若隆景に微笑んだといったところか。
最終的には優勝を果たせず、自己最高の13勝にも届かない結果となったが、高安の今場所全体の評価としては素晴らしい内容だったと思う。
上記の通り、敗れた翌日から御嶽海、貴景勝に連勝した辺りは、高安にとって成長した点だろう。
優勝決定戦の一番に関しても何も恥じることのないだろう。
大関から陥落して2年経過するが、まだまだ健在であることを証明した場所でもあるし、諦めなければこの先もチャンスはあるだろう。
何と言ってもあの稀勢の里の背中を見てきた力士なのだから、諦めない心は誰よりも熟知しているだろう。
来場所は上位総当たりの地位での活躍を期待したいところである。
最後に琴ノ若についても触れよう。
終盤戦は上記2名と比較すればやや影は薄くなってしまったが、間違いなく強くなっていることを証明した場所だった。
先場所と同様の成績で2場所連続の敢闘賞受賞だが、先場所と今場所では中身が大きく異なる。
2場所連続優勝争いをしたという点においても、先場所は最終的に何となく数字の上で残っていただけだが、今場所は終盤戦役力士と組まれた中での結果である。
前に出る圧力に関して大関にも通用することが証明出来たのは大きいだろう。
優勝争いをしていた御嶽海、終盤戦最強だった正代を下したのは素晴らしい。
場所の途中から記載しているが、間違いなく幕内中位以上の力量は備わっているだろう。
これが上位総当たりの地位でどれだけ結果を残すことが出来るかどうか来場所も注目である。
とりあえず力士に関して振り返るのはここまでにしておこう。
明日以降、大関に関しても記載したいと思う。
今場所は全体で見てもかなり良い場所だったと言える。
横綱不在の穴を新鋭の関脇、ベテランと若手の平幕が埋め、大関も存在感を見せる部分は多々あった。
そして一番の成長した点は『割の編成』だろう。
場所途中にも記載したが、今場所は比較的対応が早かった。
阿炎の大関戦が全て消滅したことは残念だったが、これに関しては今後の課題ということだ。
良い意味でこんなに二転三転する15日間もかなり珍しかっただろう。
今場所は本当に楽しませてもらった。
冗談抜きで私個人としてはトップ5に入るほどの面白さだった。
明日から退屈になるものだ…